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Water Boyy [タイ・ドラマ]

タイのドラマ「Water Boyy」の感想です。



「Our Skyy」を観る予習として、
Theory of Love」(感想ページはこちら
’Cause You are My Boy」(感想ページはこちら
と観てきまして、残るはあと1カップルとなったのですが、その対象である「My Dear Loser:Edge of 17」を観る前に、ちょっと寄り道しました。

寄り道第1弾が、この「Water Boyy」です。

MyDramaListによると、2017年4月から7月にかけて GMM 25 で放映されたようです。
YouTube に、GMM TV によりアップされています。
EP1 から EP14 まで、各エピソード45分くらいです。
YouTubeでは、各エピソード4分割されていまして、合計56本ですね。
ぼくが観たときには日本語の字幕はほぼなかったのですが、いま確認してみるとEP12のパート1を除いて用意されています。EP12のパート1もそのうちアップされるのではないでしょうか。
日本語字幕で観たかったですね......

タイトル「Water Boyy」の「Boyy」がなぜ y 2つなのかわからないのですが、ネットでは、人間の染色体が、女性XX、男性XYであることから、y染色体は男性特有のもの=すなわち男を表すというわけで、yyとすることでボーイズラブものであることを明確に示したもの、という解説がありました。
なるほどねー。

さて、このドラマはウォーターボーイと単数形ですが、日本で2001年に公開された妻夫木聡主演の映画「ウォーターボーイズ」を連想させます。
「ウォーターボーイズ」のタイ版リメイクで、そこにボーイズラブテイストを付け加えたものかな、と勝手に思っていたのですが、まったく違いました(笑)。
プール競技ではありますが、普通の水泳で、シンクロナイズドスイミングではありません。
大学の水泳部を主の舞台としたドラマになっています。

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告知上段に3組のカップルが取り上げられています。

そのうちメインとなるのは、右側の男性二人。
黄色い服の方が、お馴染みの(?) New 君ですね。
「SOTUS」シリーズのエム、「Kiss」シリーズの(というより「Dark Blue Kiss」(感想ページはこちらこちら)のと書いたほうがいいかもしれませんね)のカオを演じていた俳優さんです。
この作品での役どころは、水泳部に新加入する有望な部員 Apo(アポ)です。
この作品でも非常に複雑な表情でさまざまな感情を演じ分けてくれています。いやあ、もう安心して観ていられます。

対するお相手役は赤い服を着ている、こちらもお馴染みですね、Earth 君。
「Love by chance」(感想ページはこちらこちら)や「Kiss me Again」(感想ページはこちらこちら)、それに「Theory of Love」(感想ページはこちら)に出ていました。
顔が整っていて表情が乏しいところが(誤解のないように言っておくと、演技、です。表情を出すところはきちんと出ていますので)ぴったり役通りです。
役どころは、水泳部のキャプテンで、コーチの息子 Waii(ワイ)。コーチである父親との関係に葛藤があり、水泳の練習にあまりまじめでない。
父親が引っ張ってきたアポのことも気に入らない。世話をしろと命じられたものの、反発して......と、定番の展開ですね。
アポとワイの二人は、一緒に生活し行動を共にしていくうちにお互いの大切さを実感していく、という展開になります。ワイには彼女がいたというのに......

左側上段の男性は、ホワイト君。
だいぶお馴染みになってきました。彼がメインを張っているドラマ、後で観ました。
「Love by chance」(感想ページはこちらこちら)のスピンオフである「REMINDERS」(感想ページはこちら)や「Theory of Love」(感想ページはこちら)に出ていました。
今回は、水泳部なのに水恐怖症という Fah(ファー)を演じています。なぜ水恐怖症なのかは物語の中で明かされます。
お相手の女性は Charada Imraporn さん、ニックネームは Piglet。初めてみます。
役どころは Pan(パン)。非常に気の強い女性部員で、性的志向が女性という設定です。
ファーはパンのことが好きなのに、パンが好きなのは女性......
この二人には、ファーの幼馴染で、ファーのことを好きな女子下級生 Namkhaeng が絡みます。ファーは、Namkhaeng のことを妹のようにしか思っていない。ところが、パンが Namkhaeng のことを気に入ってしまい、ややこしいことに。

最後のカップル、左側下段の男性は、「The Gifted」(感想ページはこちら)のポム先生だ。若い...... そんな古い作品ではないんですが。演技力!?
ちなみに、彼、ドラマのテーマ曲も歌っています。MVをはっておきます。



ここでは、生徒役=大学生役です。Min(ミン)。
陸上部(でいいと思います)のキャプテンです。が、その後ケガをしてしまい、水泳部への加入を考える。水泳部のメンバーと過去(高校時代ですね)に因縁があったこともわかる。
お相手役が「Kiss me Again」(感想ページはこちらこちら)に Sanwan (サンワン)役で出ていた女優さんです。
とても気が強く、水泳部を敵対視している生徒会? 学生自治会の役員 Wan(ワン)という役どころ。なんとか水泳部を廃部に追い込もうと画策しています。
この二人、お互い言いたいことを言い合い、文句たらたらながら、お互い気になって...という王道のセッティングになっています。

この告知に出てこないのですが、もう一組カップルが出てきます。
(厳密には、ワイの父親と、元水泳部員 Kan というカップルもありますが......ちなみに、Kan を演じているのは、「2gether」(感想ページはこちら)でタインの兄を演じていた)
上の告知の下の方に小さく2段になって9人の顔写真がありますが、そのうちの左上の二人です。

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こちらのポスター(?) の一番左と右から二番目です。
一番左は、「Kiss me Again」(感想ページはこちらこちら)でゲイと母親にも疑われているお医者さん Matt(マット)を演じていた俳優さんです。ここでは、ちょっとお調子者っぽい水泳部員の Kluay(クレイ)。
右から二番目は、Tytan Teepprasan という俳優さんです。弱気と強気の交錯する下級生 Achi(アチ)を上手に演じておられました。
アチはワイのファンクラブに所属している男子。なので、ポスターで水着姿なのは少々?なのですが、ま一人だけジャージ姿っていうのもね、ということなのでしょう。
ワイのファンクラブということで水泳部の周りをうろうろすることの多いアチのことをクレイがからかい続けているうちに......というもの。お調子者なのでクレイがアチをひどく傷つけてしまって、そこからどうリカバリーショットを放つか、という展開になります。

人物相関図があるので、ここに掲げておきます。
(英語名はいろんなパターンのスペルがあるようなので、表記が違うものがありますのでご留意ください。)

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ラブストーリーという部分以外の物語の大枠としては、水泳部を廃部されないように、大学に貢献していることを示し、実績を上げなければならない、というのをどう戦って水泳の試合でメダルを獲得するか、という流れになります。
結構卑怯な手を使うあたり、あれあれ、と思ってしまいますが、まあ大学生ということなので大目に見たほうがよいのでしょうね。
また、狭い範囲で人物関係を錯綜させていますので、不自然と思われるところもありますが、そこはそれを前提に観ていくのがよいと思います。
たとえば、ワイの父親がコートをやめた後任としてやってくるのが、なんとミンの元カノ、とかね。
大学生の世界なんて、そうはいっても狭いですから、ぱっと感じたよりは不自然ではないかもしれません。

人気を得ようと水泳部が企画するのが、シンクロナイズドスイミングではなく、プールを使った劇。
男子部員が多いのに、なぜかシンデレラ(笑)。これで人気獲得できるとは思えないんだけど......
この顛末が各カップルの動向と結びついているのがポイントですね。
特に、アチとクレイの関係においては大きなイベントとなります。

まあ、いろいろあっても、若いっていいなぁ、というか、わだかまりや遺恨的なものも、腹蔵なく話すことができれば、すっきりとはいかなくても解消する、のがいい。
もちろん、話すという段階に至るまでが大変なんですが。
そういう風に、なんだか昔を遠い眼で振り返ってしまいそうになるドラマでした。

そうそう、このドラマ、最終回にあたるEP14で、ワイとアポに意外な展開が訪れます。
個人的にはびっくりしました。
ミンとワンの方も同じ展開になるのですが、いや、この後を明かしてしまうのはエチケット違反でしょうねぇ。
そのせいか、最後の最後は、ちょっととってつけたようなエンディングにも思えてしましたが、これでいいんです、と支持しておきます。

New、Earthコンビで別の作品が作られることなく、これ限りで終わってしまっていますので、そんなに人気がなかったのかな?
でも、傑作、とはいかなくても、まずまずの作品に仕上がっていたのでは、と思います。

タグ:タイBL
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三世代探偵団 枯れた花のワルツ [日本の作家 赤川次郎]


三世代探偵団 枯れた花のワルツ

三世代探偵団 枯れた花のワルツ

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/31
  • メディア: 単行本

<帯あらすじ>
個性爆発の三世代女子を、事件が放っておいてくれない。
天才画家の祖母、恋するマイペース主婦の母と暮らす女子高生・天本有里。祖母が壁画を手がけた病院で、有里は祖母と同世代の大女優・沢柳布子に出会う。布子が主演する映画の撮影を見学することになった有里だが、撮影は波瀾の連続。妻を殺した容疑で逮捕されたエキストラ、金の無心にくる昔の相手役。さらに新たな殺人事件がおきて……。


単行本です。
「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(感想ページはこちら
に続くシリーズ第2弾です。

シリーズ快調ではありますが、登場人物といい、起こる事件と言いいかにも赤川次郎という作品になっていまして、快調ではあるんですが、新たなシリーズを立ち上げた意義というのが今一つわかりません。
と、これでは、「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」の感想と変わりませんね......

この作品では、老齢の女優、往年の名女優というべきでしょうか? が登場し、改めて映画に意欲を燃やすという設定がありまして、ちょっとアレンジが加えられていますが、爽香シリーズの栗崎英子がだぶって、だぶって......

シリーズ的には、有里の恋人候補でしょうか? 加賀和人の登場が気になりますね。
このあとの作品に出てくるのでしょうか??
このシリーズならでは特色というのは、この「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」でも見出せませんでしたが、次作「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」がすでに刊行されていますので、そのあたりを念頭におきつつ、読み進めていきたいです。


<蛇足1>
「ムッとして、文乃は言った。」(36ページ)
なんとなく、「ムッとして」というのを小説の地の文で読むのは初めてのような気がします。

<蛇足2>
「刑事に向って、そういう口をきくんだね。」
「そりゃそうよ。公僕だもん。」
 と、有里は言った。(237ページ)
公僕という語が高校生の口から出ると、なんだか違和感が......

<蛇足3>
「今どき、クラブ活動に熱中する子はそう多くない。有里にしても、勉強そっちのけで打ち込んでいるわけではなかった。」(262ページ)
そうなんですか? 
ぼく自身クラブ活動に熱心に取り組んでいたわけではないので、こんなことを言うのはあれなんですが、クラブ活動に熱中するのはいいことだと思うので、若い皆さんにはぜひ打ち込んでほしいです......





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ドラマ:クラブのキング [ドラマ 名探偵ポワロ]

名探偵ポワロ「クラブのキング」(原題:The King of Clubs)を観ました。

原作が収録されているのは、こちら↓。
教会で死んだ男(短編集) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

教会で死んだ男(短編集) (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2003/11/11
  • メディア: 文庫


原作も読んでいるはずですが、覚えていません。
ドラマを観た感想は、窮屈な展開だな、と思いましたが、同時に非常におもしろい狙いをもったストーリーだなぁ、と思いました。

ポワロがとてもあっさりと真相を見抜き、ほぼ一直線で真相を目指して進むので、観ているほうにもわかりやすくなっていますが、盲点を突く設定になっているので、十分長編を支えることのできるアイデアのような気がします。いろんな目くらましを忍ばせて。
その意味では贅沢な作品なのだなぁ、と思います。

手がかりを一つ一つ、非常にあからさまに視聴者に提示してくれます。
なにしろ、それぞれの手がかりについて、ポワロがヘイスティングスの注意を喚起するのですから・
その意味では、ポワロの思考経路をリアルタイムに近い状況でたどっていけるという極めてレアな体験ができます。

そのおかげで意外性が犠牲になっているとはいえるのですが、ミステリドラマとしておすすめだと思います。
難点はなくはないですが(たとえば、現場検証をしっかりやれば、警察の動き方は変わってきたでしょう。それは、ジャップ警部のキャラクターで覆い隠されてはいますが。また、タイトルにもなっているクラブのキングがどこにあったのかは、視聴者にもはっきり示しておいてほしいところです)、よくできたミステリドラマだと強く思います。


いつも通りリンクをはっておきます。
「名探偵ポワロ」データベース
本作品のページへのリンクはこちら

実際に見たDVDが入っているのはこちら↓です。
Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

  • 出版社/メーカー: ITV Studios
  • 発売日: 2013/11/18
  • メディア: DVD






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紳士の黙約 [海外の作家 あ行]


紳士の黙約 (角川文庫)

紳士の黙約 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
サンディエゴの探偵にして地元屈指のサーファー、ブーン・ダニエルズは、“紳士の時間”を海で楽しむサーフィン仲間から、妻の浮気調査の依頼を受ける。同じころ、爽やかな人柄で愛されるサーファーのK2が、ダイナーで殴り殺された。人気者の死に街中が悲しむなか、加害者の弁護士に雇われたブーンは調査を開始、真相は別にあると直感。そして危険過ぎる事件の内実が、カリフォルニアの太陽の下に晒される時が訪れる――。


「夜明けのパトロール」 (角川文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
前作を読んだのは2014年5月。6年以上読む間が空いてしまいました。

文体といい、会話といい、くつろいだ感じが漂うのがこのシリーズの魅力と思っていて、そこに変わりはないのですが、主人公ブーンの立ち位置から、「夜明けのパトロール」 よりも緊迫した感じがします。
なにせ、仲間に背を向けるような捜査をするのですから。
そこに、恋人候補(?) のペトラが絡むのですから、なおさら。
ブーンを取り巻く人物たちがいいのは変わらずで、であるからこそ一層、ブーンの置かれる状況が厳しいものであることがこちらに響いてきます。
探偵は孤高の騎士である、というわけですね。

同時に取り組む調査が、名士で知り合いの金持ちの妻の浮気調査。
卑しき町を行く、卑しき探偵。

そう、わりと普通のハードボイルドの物語に大きく近づいた一編となっています。
ウィンズロウのハードボイルドがおもしろいのは、「ストリート・キッズ」 (創元推理文庫)から始まるニール・ケアリー シリーズやその他の作品群で照明済ですから、安心して世界に浸ればいいんですよね。

楽しみなシリーズなのですが、その後続編は出ていなそうです。
登場人物たちとまた逢いたいので、続編希望です。


<蛇足>
「名探偵がさらに活躍して、ブレインガムはじつはJFK暗殺犯だった、なんていう新事実を掘り起こしかねないからな。あるいは、リンドバーグの赤ん坊の誘拐事件にも関わっていたとか? ユダヤの群衆を煽ってキリストを磔にしたのもブレインガムだと割り出したんだろ、ブーン?」(233ページ)
こういうセリフが早い段階で登場します。望まない事実を探り当てたブーンに対して弁護士が嫌味?を言うところです。
おもしろいな、と思っていると、
「この警部補は、ケネディー暗殺もリンドバーグ愛児誘拐事件もイエス・キリストの磔も、ブーンを犯人に仕立てたがる。」(339ページ)
という地の文が登場しますーー地の文とはいってもジョニーという登場人物の視点ですが。
とすると、弁護士とジョニー双方が同じような感覚を持っている、ということですよね。このふたり、相当性格も育ちも違いそうなのですが。
こういう言い回し、アメリカでは一般的なのでしょうか? まさかね(笑)。






原題:The Dawn Patrol
著者:Don Winslow
刊行:2008年
訳者:中山宥



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制裁 [海外の作家 ら行]


制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
凶悪な少女連続殺人犯が護送中に脱走した。市警のベテラン、グレーンス警部は懸命にその行方を追う。一方テレビでその報道を見た作家フレドリックは凄まじい衝撃を受けていた。見覚えがある。この男は今日、愛娘の通う保育園にいた。彼は祈るように我が子のもとへ急ぐが……。悲劇は繰り返されてしまうのか? 著者デビュー作にして北欧ミステリ最高の「ガラスの鍵」賞を受賞。世界累計500万部を超える人気シリーズ第1作。


北欧ミステリ、流行っていますよね。流行りすぎで、いっぱい翻訳されるようになって、さてどれを手に取っていいのか迷う状況になっています。
この「制裁」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)は、以前ランダムハウス講談社から出版されていましたが、2017年にハヤカワ文庫で復活したものです。
この作者(たち?)、評判よさそうですし、復活するくらいだから、優れた作品なのだろうということで、手に取りました。

読み終わった感想は、優れた作品なのだろうな、とは思うものの、ちょっとどぎつすぎて、個人的好みではありません、というものです。
また、「ガラスの鍵」賞というミステリの賞を獲ってはいますが、これミステリかな? と思いました。

少女連続殺人、護送中の脱走、刑務所の実態、更生しない犯罪者......
社会の暗部を抉り出すような内容になっています。
ミステリというよりは、犯罪を扱った社会派小説という手触りです。
ミステリとするのなら、ミステリの枠を相当拡げないといけないと思いますし、ミステリとしても謎解きではなく、犯罪小説のテイストです。途中、法廷シーンもありますが、法廷ミステリのテイストではありません。

あらすじに引用されているのは、物語の前半まで。
そこから、物語も、フレドリックの運命も、おおきくねじれていきます。
本書の読みどころは、実はこの後の後半の展開だと思うのですが、それを明かしてしまうのは、いくら犯罪小説テイストとはいえ憚られてしまいます。
(訳者あとがきによれば、原題は直訳すると「怪物」「野獣」という意味のようです。邦題の「制裁」は、ややネタバレ気味です)

ぼかしたまま書いておきたいのですが、ラストはおそらく大方の読者の想定とは違うところに落ち着きます。
そのラストのおかげで本書は印象深いというか、忘れられないものになっていると思います。
非常に落ち着きの悪いラストなんですよね。

一方でこのラスト、作者は何を意図したのだろう? と悩んでいます。
なんだか、読者をもやもやさせるためだけに設けられたラストのような気がしてしまうんですよね。
このあたりをどう評価すればよいのか......

非常に気になる作者なので、もう何作か読んでみたいと思っています。



原題:ODJURET
作者:Anders Roslund & Borge Hellstrom
刊行:2004年
訳者:ヘレンハルメ美穂




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ラスト・ワルツ [日本の作家 柳広司]


ラスト・ワルツ (角川文庫)

ラスト・ワルツ (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/03/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
華族に生まれ陸軍中将の妻となった顕子は、退屈な生活に惓んでいた。アメリカ大使館主催の舞踏会で、ある人物を捜す顕子の前に現れたのは――(「舞踏会の夜」)。ドイツの映画撮影所、仮面舞踏会、疾走する特急車内。帝国陸軍内に極秘裏に設立された異能のスパイ組織“D機関”が世界で繰り広げる諜報戦。ロンドンでの密室殺人を舞台にした特別書き下ろし「パンドラ」収録。スパイ・ミステリの金字塔「ジョーカー・ゲーム」シリーズ!


「ジョーカー・ゲーム」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「ダブル・ジョーカー」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「パラダイス・ロスト」 (角川文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第4弾です。

「ワルキューレ」
「舞踏会の夜」
「パンドラ」
「アジア・エクスプレス」
の4話収録。

「ワルキューレ」の冒頭、緊迫したドイツと日本のスパイの逃亡劇で、このトーゴーという日本人スパイが、D機関員なのかな、でも、死んじゃいそうだし違うかな(D機関のスパイは死なないよう教育・訓練されています)と思っていたら、これが新作映画で、その主演俳優である逸見五郎の話に切り替わります。逸見五郎、映画製作費の流用疑惑があり、また、ゲッベルスの愛人にも手を出していて......
ちゃんと本物の日本のスパイも登場し、短い中にもしっかりどんでん返しが仕掛けられています。

「舞踏会の夜」の視点人物は千年の歴史を誇る五條侯爵家の(元)令嬢で、現在は加賀見陸軍中将の妻、顕子。二十年前若かりし頃に出会った軍人ミスタ・ニモ(誰でもない男)との再会を期待していた。これ、ミスタ・ニモが、D機関の結城中佐だろうな、と見当がつきますね。
当然、甘い再会、なんて凡庸なストーリーにはなりません。
数々の目くらましやミス・リーディングに支えられて、静かだけれども、意外なストーリーが展開します。個人的には動きは少ないものの、派手なストーリーだと受け止めました。
なぜ顕子視点なのかも含めて、よく巧まれた作品です。

「パンドラ」は、ロンドンで発生した密室変死事件を捜査するヴィンター警部の視点で進みます。
D機関、あるいはそのスパイがなかなか出てこないので、さて、どういう枠組みなんだろう、と思いながら読んでいると、鮮やかな登場ぶりでした。

「アジア・エクスプレス」は、満鉄特急<あじあ>号を舞台にして、正面きって?D機関のスパイ瀬戸礼二を視点人物にしています。
その列車の中で、ソ連のスパイが殺される。
その死をどう処理するか......
スパイならではの、というか、D機関ならではの目の付けどころがポイントです。

いずれも堪能しましたが、この「ラスト・ワルツ」のあと新作はでていませんし、タイトルにラスト、とつくくらいなのでシリーズ最終作なのでしょうか。
特に終わりにする必然性のあるストーリーにはなっていませんし、まだまだ続けることができるのでは、と思います。
戦争に突入してしまった日本を背景に、D機関がどう動くのかみてみたいです。
ぜひ、ぜひ、続編をお願いします!


<蛇足1>
「血腥い二度のクー・デター」(161ページ)
「クーデター」という語に「・」があることにおやっと思いました。
もとはフランス語の、coup d'État ですから、二語なので(厳密には前置詞?こみで三語かも)、「・」があってもおかしくないですね。

<蛇足2>
「《猫と鵞鳥亭》。ロンドンの中心ピカデリーサーカスから一本裏通りに入った場所にある地元(ローカル)パブだ。」(227ページ)
《猫と鵞鳥亭》、いかにもありそうな名前なので、ピカデリーサーカス周辺のパブを調べてしまいましたが、ありませんでした。
今はなくなってしまったのか、そもそも作者の創作なのか.....どちらでしょうね?
ほかにも、《賢い梟(オールド・オウル)亭》(210ページ)とか《葡萄と羽根(グレイブ・アンド・フェザー)》亭(236ページ)とか、いかにもありそうなパブ名が出てきて、面白かったです。


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2021年になりました [折々の報告ほか]

2021年になりました。
よたよたと書いているブログですが、大勢のかたにご覧いただいていて、本当にありがとうございます。
特に昨年2020年は、ミステリ絡みの本、映画、ドラマ等の感想に加えて、タイ・ドラマ、特にBLドラマの感想を書くようになり、内容も様変わりした印象です。

例年のようにアクセス数の多いページを調べました。
日本時間1月1日になった段階でチェックした数値をもとにしています。
順位を書いてあるところのタイトルをクリックするとブログのページへ、ついている書影やそこについている書名をクリックすると amazon.co.jp の商品ページへ飛びます。

今年は、タイ・ドラマで順位も様変わりです。
さすがの1位は不動の、という感じですが、2位にいきなりタイ・ドラマの「2gether」がランクインしています。
また、昨年までランクインしていなかった「アナモルフォシスの冥獣」がトップ10入りしているのもびっくりしました。

1. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正
生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫

2. 2gether [タイ・ドラマ] EP13

3. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究
QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫

4. 魔性の馬 (小学館) ジョセフィン・テイ
魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/01/01
  • メディア: 単行本

5. かばん屋の相続 (文春文庫) 池井戸潤
かばん屋の相続 (文春文庫)

かばん屋の相続 (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 文庫

6. 日本で免税の買い物

7. 体育館の殺人 (創元推理文庫) 青崎有吾
体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫

8. ある少女にまつわる殺人の告白(宝島社文庫)佐藤青南
ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 佐藤 青南
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫

9. アナモルフォシスの冥獣(コアマガジン)駕籠 真太郎
アナモルフォシスの冥獣

アナモルフォシスの冥獣

  • 作者: 駕籠 真太郎
  • 出版社/メーカー: コアマガジン
  • 発売日: 2010/11/18
  • メディア: コミック

10. スクールボーイ閣下(ハヤカワ文庫NV)ジョン ル・カレ
スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/01/31
  • メディア: 文庫



昨年1年間のアクセス数もいつも通り調べてみましたが、こちらはタイ・ドラマ一色......

1. 2gether [タイ・ドラマ] EP13
2. 2gether [タイ・ドラマ]  追加の感想
3. Love by chance / ラブ・バイ・チャンス その2
4. Until We Meet Again ~運命の赤い糸~ その2
5. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正
6. The Shipper EP12(最終回)
7. 2gether [タイ・ドラマ]
8. 日本で免税の買い物
9. 2gether [タイ・ドラマ] EP10
10. SOTUS S その1

いや、ほとんどタイ・ドラマです......
タイ・ドラマ以外で、これに続くものは
12. 映画:切り裂き魔ゴーレム
20. アナモルフォシスの冥獣(コアマガジン)駕籠 真太郎
21. 花嫁は迷路をめぐる (ジョイ・ノベルス) 赤川次郎
29. あるキング: 完全版(新潮文庫)伊坂幸太郎
33. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究
といった感じです。

ちなみに、いちばんたくさんnice!をいただいたのは、「月の落とし子」(早川書房)穂波了でした。

いつもありがとうございます!
なんだか読書関連のブログというより、タイ・ドラマのブログになってしまった感がありますが、これからもよたよたと続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。




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